熱(・統計力学)の質問です。熱(・統計力学)

熱(・統計力学)の質問です。熱(・統計力学)の質問です。 準静的変化と可逆変化の(厳密な)違いを説明して下さい。久保の『演習~』で見ました(逆行可能も)。

 

説明は

①広義可逆=可逆

②狭義可逆=逆行可能

(②⇒①)。

準静的はまさに定義によるが

*“無限小の力の差εにより無限大の時間で行う”

の解析的定義がすっきりした(たしか朝永の著)。

これだと「*⇒②」は言えそう(εの符号を取り替え)。

一方「②⇒*」の反例は難しいがありそう。(本当にある?)

 

説明の「“準静的”⇒可逆(①or②)」の反例は、拡散による統計的定義により、すっきりしません。学習院大学の田崎と申します。

 

昔、熱力学の本を書いたときなどに、こういうことについて徹底的に考えた自信があるので、(これは定番の質問でもあると思うので)答えさせていただきます。

 

まず、物理においては、こういう言葉の定義を問うような質問というのは筋がよくないということを強調しておきましょう(「正方形は長方形か?」みたいな質問が数学の本質と無関係なのと同じ)。具体的な設定が与えられたときに、一般論を適切に適用して、何が言えて何が言えないかを明確にできるというのが、物理の理論の力だからです。特に、熱力学では、「準静」「可逆」などの定義が本によってまちまちで(あるいは、多くの本にはちゃんと定義が書いていない)多大な混乱をひきおこしています。

(ですので、こういう質問を、たとえば大学院の入試で出題する人がいたとしたら、ちょっとまずいです。そういうのに出会ったら、ぼくにチクってください。)

 

で、これらの概念の定義ですが、

 

■■準静

準静変化、準静操作というのは、大ざっぱに「かぎりなくゆっくりした変化、操作」の意味です。

ただ、ここでどのような「変化、操作」を許すかということを規定しないと話しは明確になりません。そのあたりの定義は人によって違います。

 

■■可逆

こっちは混乱の源泉で、人によって定義は違うし、多くの教科書に誤りや混乱が見られます(困った話ですが)。

もちろん、大ざっぱには「元の状態に戻せる」ということですが、ほとんどの場合、断熱変化・断熱操作(外界と熱のやりとりをしないような状況での変化・操作)に関して議論します。ここでも、断熱にかぎりましょう。

そうすると、可逆の意味は、おおよそ二通りに使われていて、

■広い意味での可逆

断熱操作で、状態 A から状態 B への変化が可能だったとする。やはり断熱操作で状態 B から状態 A への変化が可能なら、最初の操作は可逆という。

■狭い意味での可逆

断熱操作で、状態 A から状態 B への変化が可能だったとする。この操作を「ちょうど逆向きに」実行したとき、状態 B から状態 A に変化するなら、最初の操作は可逆という。

とまとめられます。

 

ですので、たとえ断熱環境での操作や変化に限っても、準静と可逆はまったく別の概念です。

 

さて、(おそらく、ここからがご質問への答えになりますが)準静的に動かせば、かならず狭い意味で可逆なんじゃないかという気がすると思います。

確かに、断熱した気体のピストンをゆっくりと縮める操作をして、それから、逆向きにゆっくりとピストンを戻せば、状態はもとに戻ります。この場合は、可逆です。

ところが、たとえば断熱壁で囲った容器の真ん中を壁で仕切り、一方を真空にし、片方に気体をいれておき、それから壁に小さな小さな孔をあけることを考えます。小さな孔からゆっくりと気体が漏れていき、長い時間がたつと二つの部分の気体の圧力が等しくなるでしょう。これは(定義によりますが)準静変化とみることができます。ところが、この変化ではエントロピーが確実に増えるので、これを断熱操作で元に戻すことはできません(これは熱力学を学ぶと分かります)。広い意味でも、狭い意味でも可逆ではありません。

 

このように、断熱で準静的な変化であっても、どういう変化・操作を許すかに応じて、可逆だったり可逆でなかったりします。